皹て着膨れしまま歩み来て

故郷を短く説明せよと言われたら、高度経済成長を支えた炭鉱町ですと答えるしかない。気持ちにそぐわぬ表現である。様々に豊かな表情を持っているのだが、全国に通用する平均的な説明となると、そこに落ち着く。実感は無いが、たぶん繁栄を極めたのだろう。想い出してみると、運動会は町中、農業、炭鉱に分かれて、親から近隣までを巻き込んだ一大イベントとなっていた。お祭りにはテキ屋が溢れ、サーカスや見世物小屋も設置された。メンコ(パッチンと言った)、ビー玉、凧揚げ、何でもギャンブルだった。お小遣いは10円が相場。紙芝居屋さんが来ると、それを握り締めて飛んで行った。
でも、もう一度想い出してみると、皆が貧しかった。寒くなると、皹(あかぎれ)ができるのは当たり前だし、学生服の袖は水洟でテカテカだったし、薄っぺらな古着を重ねて着膨れしていた。そのままの精神年齢で、50年が過ぎてしまった。着膨れ(1/16)

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