言の葉の散る海広し菜の花忌

二月十二日は司馬遼太郎の命日で「菜の花忌」と呼ぶらしい。彼が俳句を作ったかどうかは寡聞にして知らないが、忌日があるというのは意外であった。当然、髙田屋嘉兵衛を主人公にした小説「菜の花の沖」に由来するものだろう。ストーリーから逸脱した「以下、無用のことながら」にこそ面白味を感じて、興味津々と無用の森へ踏み込んで行ったものである。かつて、「韃靼疾風録」に心酔して「アビア」という名のデザイン会社を設立したことがあるくらいで、司馬さんの博覧強記ぶりだけでなく、深味のある淡泊さとでも言える文体に魅了されたものです。「菜の花忌」という語感から、穏やかな瀬戸内の海と、白波しぶく眩しい玄界灘と、ふたつの海を想起してしまいます。(2/12)

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