この国では、だんだんと苦味や酸味が嫌われてるようになって、夏蜜柑や冬林檎の人気が凋落しているらしい。思うにそれは味覚の問題だけではなく、思考や行動の傾向にも現れているようだ。この国の短詩型文学には、万葉の昔から正述心緒と寄物陳思のふたつの傾向があって、前者は自分の思いの表出にこだわる短歌型、後者は物をして語らせる俳句型。他者の理解を得られなくても、我が道を信じて歩くという孤高が疎ましく思え、手っ取り早く糊口を凌ぐことが好まれることと、苦味・酸味が疎まれることとは、決して無縁ではないだろう。辛い味のお店が矢鱈と評判になるのは、我慢できない世代が深層心理で免罪符を求めているからだ、なんてね。(1/27)