檸檬といえば、かつては梶井基次郎の専売特許であった。僕は、ここではさだまさし。盗んだ囓りかけの檸檬を、聖橋から中央線へ投げる。捨て去る時には出来るだけ遠くへ投げるものよ、と、ヒロインは嘯く。あの頃、似通った境遇にいた僕は、胸を絞られるような気持ちで聴いたものであった。だったかな?檸檬に季節を感じなくなってから久しいような気がする。その分、象徴性がなくなった、可愛さがなくなった。しかし今日でも、聖橋から見る神田川と中央線、お茶の水駅から見る神田川と聖橋、地上を走る地下鉄丸ノ内線は、東京で大好きな風景のひとつである。檸檬(10/5)