底冷の夕を竹の香の中に

極寒の嵯峨野を歩いた。爽やかな濃密さとでも言えばよいのだろうか。空気すらがやや緑を帯びて、静謐な沈黙を濃くしている。そして、確かに竹の林は香りを放つのである。天龍寺の北門を抜けて竹林も道へ入ると、夕方という時間帯もあって、刻々と底冷えの度合いは増してゆくのだが、それが意識を覚醒させてくれ、澄んだ集中力で周囲の有様や気分を甘受することができるようだ。久しぶりに萩原朔太郎の詩「竹、竹、竹が生え」のフレーズを脳裏に呟きながら、ゆっくりと踏みしめるように歩いた。竹には、やや湿度はあるけれど爽やかさを秘めた香りがあることを教えられただけでも、京都に旅した価値はあったというものだろう。(1/19)

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