随分と若かった頃の話ではあるが、毎夜毎夜の飲み歩きに欠かさずボイスレコーダーを持って、いざ出陣と出掛けていた。何軒かはしごしてしこたま酔った末、呑み相手と別れて一人になった後のことである。家路に向かうタクシーの中で、あるいは満天の星の下を歩いている時に、突然、素晴らしいフレーズが、あるいは美しいメロディが、大脳という枯渇した平野を潤す慈雨のように降ってくるのであった。「おお、急げ、急げ!この言葉を記録しておけ、その旋律を採譜しておけ!」となるのである。そこでボイスレコーダーが大活躍。一冊の詩集へと、一枚のレコードへと結実・・・したことは無かった。が、自分に自惚れることが出来た時代があったのである。4/20